多分、電話はかかってこない

昨日、今日と珍しく母が電話に出た。言っていることは頓珍漢だけど、少なくとも生きてはいる。今朝、電話したら、まだベッドの中だから後でかけ直すって言っていたけれど、多分、母から電話はこない。電話をかけることも忘れているだろうし、かけ方も忘れているかもしれない。今朝の電話もスタッフさんが取って渡してくれたみたいだったし、想像よりも早く認知症が進んでいるようだ。

妹は母のことを思って泣く。ママが可哀想だって。どんどん分からなくなっていく不安もあると思うって泣く。私は泣けない。ああ、そうなんだくらいにしか思わない。これが育てられ方の差なんだろうと思う。大事に育てられた妹と捨てられた姉。八つ当たりの道具にされてきたのに、親身になれるわけがない。

私には母以外にも心配事が山ほどあって、母への優先順位はかなり低いのだ。忘れてしまっていると言ってもいい。母の心配だけしていればいい妹とは違う。先日、妹にLINEで、家のことを伝えた。これで、少しは母だけを心配できないということが理解できるかと思ったんだけど、全然ダメ。お姉ちゃんが心配って言うけれど、話の内容は母のことだけ。

私に自分と同じように母のことで悩め、心配しろっていうのは無理な話だ。母のことよりも子供たちの方が心配で当然だし、家庭のことが心配で当然。家業のこととか、夫のフキハラとかも妹に話したけど、誰かに相談しろとか、離れて暮らせとか所詮は他人ごとのようなことを言われた。余命宣告を受けた夫を見捨てて離婚する気はないんだけど。

もちろん、別居する気もないし、損得考えたら離婚するよりも死別する方がお得なのだ。その辺りの計算はできているので、妹が余計なことをしなければいいと思っている。

母が死んだら自分は独りぼっちになってしまう。妹の不安はそれだけだ。だから、母を長生きさせようとあれはダメこれはダメって好きな食べものも禁止にして、結局、認知症になって手間がかかるようになったら、いなくなって欲しいとか思うようにもなったみたいだ。生きていて欲しい気持ちと、死んで欲しいという気持ちの間で揺れ動いている。

私に、一緒に暮らそうって言う。正直なところお断りだ。私はたとえ、子供たちと離れ離れになって1人で暮らすことになったとしても、妹とは一緒に暮らしたいとは思わない。会いたくないくらいなのに、何で一緒に暮らそうと思うか。

姉妹でも、それだけで仲が良くなるわけではない。母を大事に思って行動できる妹と、生き死にすら無関心な私。母がケアハウスに移ってからは、滅多に会いに行くこともなくて、毎朝の母への電話も苦痛だと感じているのに、どうして母のことを心配したりできるか。妹はそれが分かっていない。

自分の母親なんだから、無条件に愛して心配できると思っている。子供の頃ならそうだっただろうし、私も長いこと愛されたいと思ってきた。でも、今さら愛されたいとか思ったりしない。必要な時期は限られているから、その時に愛されなければ意味がないのだ。時間指定ではないけれど、愛情待ちのタイムリミットはある。

母が自分で電話を取れなくて、連絡が取れなくなったことで妹はかなり消耗しているようだけど、私は全くと言っていいほど気にしていない。忘れていく不安を思っても何も感じないのだ。冷たいかもしれないけど、自分が捨てた子供に何を期待するんだ？

もう、ケアハウスは退去しなければならないだろう。予防線は張ったから、金銭面で妹が要求してくることはないと思うが、新しい施設に入るのだってお金がかかる。グループホームならお手頃ではあるが、車椅子OKかとか心臓が悪くても入れるかとか、いろいろ分からないことも多い。介護施設は高額なのが困る。特老は300人待ちだそうだ。

まあ、そんなに母のことが大事なら、妹が引き取って面倒をみてあげればいいじゃんって思わないではない。介護離職して、将来に不安だけを抱えることになるかもしれないけど。それだけ母の心配をして、仕事も手につかない、食事も喉を通らないで自分が倒れてしまっていては話にならない。少し、手を抜くことも覚えないとダメだ。

別に、私は母に会いたいとも思わないが、まだ、覚えているうちに孫には会わせてあげたいとは思う。子供たちもお祖母ちゃんには会ってもいいけど、叔母ちゃんとは会いたくないと言っているので、妹が訪問していない時を狙っていくしかない。母に都合を訊こうにも電話に出てくれなければスケジュールも確認できない。出たところで、スケジュールの把握なんてしてないだろうし、気分は八方塞がりだ。

妹には、もはや誰も会いたがらないし、私も同様なのだ。彼女のヒステリーにはうんざりだし、愚痴ばかり聞かされていては、私の脳にダメージが来る。

母を見て教訓にすることは、子供を八つ当たりの道具にしてはいけないし、虐待してもいけないし、兄妹誰かを残して出ていくって考えてもダメっていうこと。後で、とんだしっぺ返しを食う。後は記憶の改竄をしてはいけないっていうことだろう。本当に腹が立つ。少しでも反省しているならともかく、全てを忘れて記憶を改竄していい子ぶってんじゃないって怒鳴りつけてやりたい。

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