もう、母は自立型ケアハウスでは暮らせない。電話も出ない日が増えた。電話に出る日の方が少ない。スタッフの人が出てくれることもあるけれど、母は電話が鳴っていることにも気が付かないのか、気が付いても出方が分からなくなったのか、認知症の進行が早過ぎて私たちが付いていかれない。
最初から自立型なんて無理のあった話なのだ。何故、焦って入居を決めてしまったのか。妹も入居を決める前に、もっと強く引き留めることはできなかったのか。で、入居してから泣き言を言われても、勝手にやったことじゃんって突き放すこともできない。とにかく、年金で入れる施設を早急に探さなければならないんだけど、軽く検索してみたら、ヒットしたのは1件だけ。他には満杯状態で、如何に年寄りが施設で暮らしているかがよく分かる。
1件、ヒットしたからといって、そこに引っ越しができるとは限らない。他にも探している人はいるだろうし、健康チェックとかして診断書の提出とかがあって、おそらくそこで入居させても大丈夫かどうかの審査がある。とにかく、空きがないのだ。妹が提示してくる金額が低いのだ。それが母のもらっている年金から出せるギリギリのラインなのだろうけど、私は母が年金いくらもらっているか知らないし、貯蓄が残っているかも知らない。
何も知らないで、探してって言われても困ってしまうのだ。いつまでに探せばいいのか、どの辺りがいいのか、まるで何も分からない。グループホームがいいのか介護施設がいいのかも分からない。
ケアハウスのスタッフさんが、母にはグループホームが合うと思うと言っているらしいが、車椅子でグループホームの利用ができるのかとか、看取りとかもお願いできるのかとか、全く無知なのだ。訊いてみなければ、何も分からない。見学する必要もあるだろうし、見学に母を連れて行くのは、正直、無理があるだろう。
私たち姉妹だけで決めて、そこに母を送り込むことしかできないわけだ。ほとんど歩くことが出来ない母は、車椅子OKのところしか入居はできないし、介護施設は利用料が高額だし、ほんとに勘弁して欲しい。安くて劣悪な環境に送り込むのは、流石に気が引ける。この先、母に会う気が全くない私でもそう思うのだ。
もしも、実家の家がまだあったなら、って思う日もある。でも、実家は夫の会社の保証人になったために人手に渡り、貯金も差し押さえられ、ほんとに年金以外何もなくなってしまった。その点については、済まないことをしたと思うんだが、それは私の復讐でもあったわけで、本当に馬鹿なことをしたとは思っている。
復讐なんてするもんじゃない。後味が悪い。そして、その結果が今の母の現状に繋がっているのだ。復讐したところで、恨みや憎しみが消えるわけじゃない。赦さなければと思っても、赦せない自分が嫌いだ。
母の施設探しも、妹に丸投げしてしまいたいくらい、関りを持ちたくない。丸投げしたら、またヒステリー起こされるのは目に見えているが。
母の年金は、負担額が2割になるくらいはある。それでも、施設で生活させるには足りないのだ。今のケアハウスから退去勧告は出ていないが、年末年始はショートステイするように言われているらしい。でも、そのショートステイさせるあてもないし、最悪は妹が引き取る形になるかもしれない。そして、そうなったら、妹は介護離職するしかなくなるだろうということも容易に想像がつく。
彼女が定年まで勤めるためには、母を終身あずかってくれる施設が必要なのだ。だけど、そう簡単には見つからないし、そうした施設がある場所は、辺鄙な場所が多い。辺鄙な場所に預ければ、また、妹がグチグチ言い出すのも想像がつく。
何で、最初から介護施設に入れなかったのか、その責任を私に求められても困る。自分の母親のことなのに、私は自分のこととして捉えられない。どこか他人ごとなのは、薬の影響かもしれない。母のことになると、食事も喉を通らない、眠れないという妹と、普段と全く変わりなく生活してしまう私。本当に私は冷たいのだろう。過去のことなど水に流してしまえばいいのだろう。しかし、そう簡単には行かないのだ。
それ程、私は母のことを恨んでいるし、憎んでいる。
まあ、それでも、施設探しの手伝いくらいはしないとダメだろうとは思う。妹のヒスに付き合う気にはなれないから。母のためじゃない。自分の生活を守るためだ。冷たいかもしれないが、これは母が自分で蒔いた種だろう。今、刈り取りの時が来ている。
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