笑えない。何をやっても頭に霞がかったような感じで集中できない。寂しいとかいう感情はないけれど、どよーんとした重たさを感じる。悲しいとか思わないけど、急に泣きたくなる。どうも現実に順応できていないようだ。しばらくそっとしておいて欲しいとは思うけど、現実はそうはいかない。
でも、結局、家事も最低限のことしかできていない。掃除もしなくちゃいけないのに放置だし、やらなくちゃと思うだけで行動に移せない。本当に頭がぼーっとしていて、何をするにも抜けている。私って、こんなに弱かったっけ?このままでは、多分、家が大変なことになってしまう。でも体が動くことを拒否しているし、頭は考えることを拒否している。元気を出さなくちゃって思っても、そう簡単に元気が湧いてくるものでもないようだ。
近しい身内を亡くしたんだから、多分、これが正常な精神状態で、妙にハイテンションになったとしても、それはこんな感情の裏返しに過ぎないんだろう。母は何も言わずに逝ってしまった。私も母に何も言わなかった。もっと、自分の思っていたことをぶつけていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのか。そんなことばかりを考える。
もしも、私が復讐するなんてバカなことを考えなければ、実家はまだ健在で、母も認知症になることなく、歩けなくなることもなく、今も元気でいたんじゃないのか。寂しい思いをさせなくて済んだんじゃないのか。すべては私の責任なんじゃないのか。
母に自分の気持ちをぶつけようとしたこともある。でも、その時には既に母の記憶は都合がいいように改竄されていて、気持ちのぶつけようもなかったんだ。苛めをしていた人が、自分が苛めていたことなんて綺麗に忘れてしまっても、被害者はいつまでも覚えているように、母は自分が私にしてきたことのすべてを忘れてしまっていた。
これでは話にならない。それからは、何を言っても無駄だという意識が働いて、でも、過去の母の行為は忘れることが出来ず、母に関しては複雑な感情があった。自分がしてきたことで、未だに娘が傷ついているなんて知ったら、母はどうするだろうか。もっと、違う形で家族だったら、言っても仕方ないことだけど、そんなことばかりを考えてしまう。
今は気持ちを伝えることもできない。心残りがあるとしたら、母に過去を思い出させることを放棄してしまったことだろうか。本当に復讐なんて考えなければ良かった。気も晴れず、罪悪感だけが残る。せめて、家だけでも残せるようにしておけば良かったと思うのだ。そうしたら、母は知らない土地を転々として晩年を過ごす必要はなかったんだから。
まあ、実家が残っていたとしても、それで上手く回っていたとは限らないとも思う。でも、家があるのとないのとでは、全く違っていたんじゃないのか。何故、私の話に乗ったんだ?断れば、今も実家はそこに建っていたはずなのだ。そうすれば、住む場所の心配をすることはなかったはずだ。小姑と一緒の暮らしは大変だったろうとは思うが、私のやったことは赦されることではない。
何故っていう思いは、常に付きまとう。何故、私に恨みごとを言わないのか。何故、お金の無心に応じたのか。何故、連帯保証人になんてなったのか。すべては可愛い娘と孫たちのためだったのか。
そんな可愛い娘だったら、何故、虐待を繰り返した?何故、復讐を考えるまで私を追い詰めた?もう、どんなに疑問であっても、答えてはくれない。天国で会ったら、訊いてみたいけど、母のことだから、忘れちゃったって済ませてしまいそうだな。
そもそも、赦せない私が天国に行かれるとも思えないが。大嫌いだったはずなのに、ここまで落ち込ませるのだから、母のことが大好きだった妹は、もっと辛いんじゃないだろうか。
私には辛いという感情はない。ただ、空気さえ重く感じるだけで。何もしたくない、できれば1日中布団を被って寝ていたいという欲望があるだけで、決して辛くはないのだ。ただ、やりきれないのだ。来月には誕生日が来て米寿になっていたはずだった。それなのに、ほんとにあっさりと逝ってしまった。心残りはなかっただろうか。
認知症が進行していたから、細かいことは考えれなかったかもしれないけど、何か伝えたいことはなかったんだろうか。せいぜい、姉妹仲良くとか、体を大事にとかくらいだったろうとは思うけど、母の口から聞きたかったなって思う。この鬱状態は、しばらくは続くのだろう。振り払うこともできないし、この感覚を誰かに伝えるのは難しい。
冷たい私でも、母親死んだ、ざまあとかいう気持ちにはなれなかったから、そこまでヤバいやつにはなっていなかったんだろう。
時間が解決してくれるのを待つしかないんだろうって思う。死は天国への凱旋なのに、素直に喜べない私をどうか赦してください。
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